名古屋高等裁判所金沢支部 平成4年(行コ)1号 判決 1993年11月29日
控訴人
河合茂
同
福井信用金庫
右代表者代表理事
山際喜一
右訴訟代理人弁護士
杉原英樹
控訴人ら補助参加人
松岡町
右代表者町長
河合弘和
右訴訟代理人弁護士
金井和夫
同
金井亨
被控訴人
金元直栄
同
金元幸枝
同
水脇達雄
右三名訴訟代理人弁護士
八十島幹二
主文
一 原判決中、控訴人河合茂及び同福井信用金庫に関する部分をいずれも取り消す。
二 被控訴人らの控訴人河合茂及び同福井信用金庫に対する訴えをいずれも却下する。
三 被控訴人らと控訴人河合茂及び同福井信用金庫との間に生じた訴訟費用及び参加によって生じた費用は、第一、二審とも、被控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第一控訴人信用金庫及び控訴人ら補助参加人の求めた裁判
一原判決を取り消す。
二被控訴人らの請求をいずも棄却する。
三訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
第二事案の概要
一当事者双方の事実上の主張は、次のとおり付加・訂正する他は、原判決事実及び理由「第二 事案の概要」(原判決二枚目裏一〇行目冒頭以下同五枚目表初行末尾まで)中、控訴人ら及び補助参加人に関する部分記載と同一であるから、これを引用する。
二補助参加人の主張
仮に甲土地と乙土地との価格差が三分の一を超え、本件土地交換契約が無効であるとしても、平成四年三月一九日、補助参加人町議会で同契約を追認する趣旨の議決がなされたから、同契約は適法となり、有効となったものである。
三被控訴人らの認否
補助参加人主張の決議がなされたことは認める。
しかし右決議は、補助参加人の町長河合弘和が取下前の控訴人辻岡忍(以下、「辻岡」という。)の脅迫に屈した結果、町長の職権を濫用して同決議の議案を提案してなされたものであるから、その提案は違法であり、従って右決議も違法無効というべきものである。
第三当裁判所の判断
被控訴人らの控訴人河合茂及び同福井信用金庫に対する訴えが監査請求前置の要件(地方自治法二四二条の二第一項、二四二条一項)を充足しているか否かにつき、職権により検討する。
地方自治法二四二条の二第一項は、監査請求前置主義を規定しているけれども、右は抗告訴訟における審査請求前置とは全く性質を異にするものである。
即ち、同法二四二条の二第一項の住民訴訟は、住民がその所在する普通地方公共団体の財務についての違法不当の是正を求めるために、自己の法律上の利益にかかわらない当該普通地方公共団体の住民という資格で、特に同法によって出訴することが認められている民衆訴訟の一種であるところ、同法二四二条が定める監査委員に対する監査請求は、地方公共団体の職員の財務会計行為の違法不当をまず当該自治体の自治的、内部的処理によって予防、是正することを期待している。そうした前記二四二条の二第一項一号ないし四号は、右監査請求に対する監査委員の監査の結果等に不服がある住民に対し、裁判の道を開いているものである。かかる法の趣旨からすると、監査請求前置の要件を充足したというためには、監査請求と住民訴訟の対象とが必ずしも完全に一致する必要はないけれども、その対象事項の同一性が必要であると解される。
これを本件についてみると被控訴人らが、昭和六二年三月一〇日付けで松岡町監査委員に対し、申立てた措置請求書(<書証番号略>)によれば、右監査請求の趣旨には「松岡町長が、昭和六一年五月六日、辻岡と締結した本件交換契約は、違法不当であるから監査を求め、次の措置を講ずるよう請求する。(一) 甲土地につき、福井地方法務局松岡出張所昭和六一年五月七日受付第七一七号所有権移転登記の抹消登記手続を求め、これを松岡町に返還させること、(二) 甲土地が取り戻せないときは、町長河合弘和と辻岡が連帯して松岡町に損害賠償金一五〇〇万円を支払わせること、」との記載があるにすぎず、本件全証拠によっても、控訴人河合茂に対する本件所有権一部移転登記及び同福井信用金庫に対する同じく抵当権設定登記を直接監査請求の対象としている事実を認めることができない。
本件は、被控訴人らが、町長の交換契約の無効を理由にして、松岡町に代位して辻岡に対し、所有権移転登記の抹消登記請求と所有権に基づく妨害排除請求を行うものであり、辻岡から所有権一部移転仮登記及び抵当権設定登記を得た控訴人らに対し、同様に松岡町に代位して所有権に基づき各抹消登記手続を求めるものであるが、辻岡に対する請求と控訴人らに対する請求とは、交換契約の評価も加わってあくまでも別個のものであり、実質的にみても同一性のあるものとは解されない。従って、右の各請求がいずれも甲土地に関するものであるからといって、控訴人らに対する右請求が前記監査請求の対象に含まれていると認めることはできない。
そうすれば、控訴人河合茂及び同福井信用金庫に対する被控訴人らの本件訴えは、いずれも監査請求を経ておらず、監査請求前置の要件を欠くので、不適法として却下を免れない。従って、この点を看過してなされた原判決は違法であるから取り消しすることとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 笹本淳子 裁判官 横田勝年 裁判官 田中敦)